「……髪、ちゃんと乾かさなきゃ、駄目です」
戸惑いながらも春歌がやっと絞り出した声は、今の状況をまるで無視するかのような言葉だった。
無視――している訳ではない。烏の濡れ羽色をしたトキヤの艶やかな髪は、まだしっとりと濡れていた。ベッドに横たえられ、仰向けの状態になった春歌の頬に、ぽたりと雫が落ちる。
春歌のそんな言葉に、トキヤは唇を歪めて薄く笑った。
「乾かす間も惜しいです」
一刻も早く君が欲しい――。
熱の篭った吐息と共に囁かれ、春歌は思わず身を硬くする。彼女の小さな身体に、覆い被さるようになった彼の艶めいた微笑に、ぞくりとさせられた。
――ぽたり。
もう一滴、彼の毛先を伝って雫が落ちる。狙いすましたように春歌の唇に落ちた雫を、トキヤはそっと舐め取った。
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